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本の話 「左川ちか全詩集」森開社版

「左川ちか」です。
ご存じない人が多いかもしれません。
1911年(明治44年)2月14日-1936年(昭和11年)1月7日。昭和時代初期の詩人です。北海道余市郡余市町大字黒川村に生まれる。享年24。
夏目 漱石 (1867年2月9日(慶応3年) - 1916年(大正5年)12月9日)。
芥川 龍之介(1892年(明治25年)3月1日 - 1927年(昭和2年)7月24日)。
宮澤 賢治 (1896年(明治29年)8月27日 - 1933年(昭和8年)9月21日)。
中原 中也 (1907年(明治40年)4月29日 - 1937年(昭和12年)10月22日)
こんな人と同時代です。100年(一世紀)前の人です。
子供のときから身体が弱く、24歳という若さで亡くなりました。
「左川ちか」を「小樽文学館」の展示で見たときに衝撃的な感動があり、それ以後100年前の女性に夢中になりました。「左川ちか」の有り余る才能が、目の前に迫る死を予感し、生き急ぐように詩を書かせたのかもしれません。詩のどこかに死の影を感じます。この若さで詩は完成されているようです。
「左川ちか」の詩が目に触れる機会は少ないと思います。
詩人藤井貞和が、「日本文学源流史」青土社で「左川ちか」ふれています。
詩集の最初の詩を載せます。100年前なのに少しも古さを感じさせません。


昆虫

昆虫が電流のやうな速度で繁殖した。
地殻の腫物をなめつくした。

美麗な衣裳を裏返して、都会の夜は女のやうに眠つた。

私はいま殻を乾す。
鱗のやうな皮膚は金属のやうに冷たいのである。

顔半面を塗りつぶしたこの秘密をたれもしつてはゐないのだ。

夜は、盗まれた表情を自由に廻転さす痣のある女を有頂天にする。
               
 (「文芸レビュー」昭5・8)


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by hitoshi-kobayashi | 2016-06-09 10:56 | Comments(0)