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本の話&これ食べました。「アイスバイン」

今日は、「アイスバイン」にかかわるお話しです。
「これ食べました。」は「これ食べたことがあります。」が本当です。

「アイスバインの作り方」  長田弘 『食卓一期一会』から
どかっとした
豚のすね肉のかたまり。
めったとキリで刺し、
よくよく塩をもみこむ。
木樽いっぱいに塩水をみたす。
樽に小さなジャガイモを落とす。
沈むようなら塩が薄すぎる。
浮いてくるくらいの濃さにする。
樽にすね肉をどっとほうりこむ。
落し蓋して重石する。
そして七日七晩、何もしない。
アイスバインをつくるのはきみじゃない。
時間という頑固な手練れの料理人(シェフ)だ。
八日めの夕暮れがきたら、
肉のかたまりをとりだす。
ぐらぐらの湯でサッと煮る。
ひたひたの水に入れて
月桂樹の葉、唐辛し、クローヴ少々。
時間という古い才能にきみはたすけられて、
火をつけて、
あとは一刻あまりコトコト煮るだけ。
アイスバインのレシピは、こうだ。
時間という料理人(シェフ)を、きみはよく
親しい友人となしうるか。

アイスバイン(ドイツ語:Eisbein)は、ドイツ料理を代表する家庭料理である。ベルリンの名物でもある。豚肉(塩漬けの豚すね肉)を、タマネギ、セロリなどの香味野菜やクローブなどの香辛料とともに数時間煮込んで作る。ザワークラウトやジャガイモとともに供されることが多く、マスタードをつけて食べるのが一般的。(ウィキペ)
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長田弘のことを書きたかったのでが、何しろ敵は大きすぎてどこから手を付けていいか、途方に暮れていました。
思い切って、やさしそうなところからとこの詩を選びました。
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長田 弘(おさだ ひろし、1939年11月10日 - 2015年5月3日)は、日本の詩人、児童文学作家、文芸評論家、翻訳家、随筆家。(ウィキペ)
長田弘『全詩集」 みすず書房 2015年
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詩は難しいと思い込んで長い間敬遠していました。
長田弘の別な詩集『深呼吸の秘密』に触れたとき、あまりにすんなり気持ちの中に染み込んでくることに驚きました。
長田弘は日本を代表する詩人であり、評論家です。その守備の広さと博覧強記ぶりはとんでもないレベルです。
「アイスバインの作り方」なんてことが詩になるんですね。
時間がもたらす美味しさを、わかりやすい言葉で語りながら、時間について考えさせます。
アイスバインを人生と置き換え、最後の二行の「時間という料理人(シェフ)を、きみはよく/親しい友人となしうるのか。」を「きみは、時間を親しい友人となしうるのか。」と言い換えると、この詩の深さを感じます。
声に出して読むと、なめらかな言葉の響きが連続し、その心地よさは格別です。この詩は、その語調から簡単に作られたように感じさせながら、とんでもない数の添削、書き直しの上で誕生したのでしょう。心に染み入る言葉や表現を作りだせることが、詩人と言われる人たちの特質かもしれません。

さて、「アイスバイン」は私の大好きな料理です。とにかく美味しい。
帯広の北の屋台を卒業した『らくれっと』というお店ではじめて食べました。一人では多すぎるので、複数人数のときに注文します。
次回の話題は、帯広の『らくれっと』+「アイスバイン」です。

長田弘のことは、後日改めて紹介します。
by hitoshi-kobayashi | 2016-06-30 07:30 | Comments(0)