2017年 01月 05日
本の話『がんと闘った科学者の記録』 戸塚洋二著 立花隆編 文藝春秋
昨年の暮から読み始め、正月行事で中断、酒が切れて来たので読書再開です。
『がんと闘った科学者の記録』 戸塚洋二著 立花隆編 文藝春秋 2009年
故戸塚洋二は1942年生まれで、素粒子ニュートリノに質量があることを発見し、物理学の世界に多くの業績を残した物理学者です。
2000年大腸がん手術を受け、2007年8月から2008年7月に死去するまでの壮絶な闘いの記録(ブログ)です。
この本では2007年8月4日~2008年7月2日までを、三か月区切りを持つ章で構成さています。
実際のブログはもっと多くの情報を伝えていますが、立花隆は構成を整理し、分かりやすく編集しています。
大腸がん抗がん剤治療による闘いの経過を、科学者の冷徹な目で客観的に描いています。
主治医から抗がん剤の効き目を表す腫瘍マーカーという血液検査の数値を入手し、時間的経過をグラフ化し分析しています。
また、CTスキャンの写真を入手し、腫瘍のサイズの変化も分析しています。
通常のがん患者では、このようなデーターの入手の主治医の許可を得ることは難しいでしょうが、主治医が戸塚洋二の科学者として謙虚な姿勢と冷静な精神的安定を信頼しているからかもしれません。
戸塚洋二は大腸がん患者として知りたいことを列挙しています。
▼今の抗がん剤は少し効いているようだが、いつ効かなくなるのだろうか。
▼新しい抗がん剤のオプションはあるのだろうか。それは使用可能だろうか。
▼がんの進行スピードはどの時点で加速を始めるのだろうか。
▼その時点で起きる苦痛はどの程度だろうか。
▼あと何カ月歩ける体調を維持できるだろうか。
▼どのような死因で死んでいるのだろうか。
(後略)
など、具体的な質問ですが、主治医が答えることのできない内容を含んでいます。それを解決するため、同じくがんと闘っている患者が利用できる体験談集積(データーベース化)を繰り返し提案しています。そして患者の「自己責任」によって利用することを提案しています。
このブログは現在も公開されています。是非覗いてみることをお勧めします。
カテゴリ:人生・奥飛騨・我が家の庭に咲く花・大腸ガン治療経過・抗ガン剤ショートノート・科学政策・科学入門・教育・環境・災害・その他
本書の編者の立花隆の序文と巻末の対談「がん宣告『余命十九カ月の記録』」戸塚洋二×立花隆を読むことで、戸塚洋二の広い視野と好奇心、そして壮絶ながんとの闘いの理解が深まると思います。
科学者として印象にのこる言葉を引用します。
戸塚洋二は自らを無神論者だと言います。
その戸塚洋二がこう言っています。
「Heaven(天国)は本当にないのか。誰もが死にゆくとき、それが真実かどうかを実体験します。私も最後の科学的作業としてそれを観察できるでしょう。残念なのは観察結果をあなたに伝えることが不可能なことです。」