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本の話 西加奈子著 「 i (アイ)」ポプラ社 2016年

本の話 西加奈子著 「i(アイ)」ポプラ社 2016

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1900年初頭や19451950年の本ばかりを読んでいたので、ちょっと最近の本を読んでみるのも悪くないと思っていたとき、新聞の広告にひかれて衝動買いしました。

先ずタイトル「i(アイ)」にやられました。

なに? i ?

このつかみは強烈でした。

私は、「i」の意味が「i(アイ)=自分」、「i(アイ)=愛」かなと想像しました。しかし、西加奈子は、さらに「i=虚数」と主人公の名前「ワイルド曾田アイ( i )」を盛り込みます

1988年シリアで生まれ、ハイハイを始める前にアメリカ在住のアメリカ人男性と日本人女性の夫婦の養子になりました。この設定だけでも極めて現代的な物語が予想できます。

西加奈子は、不条理で残酷な現実を次々にアイにぶっつけます。それは現代のわれわれが直面している問題であり、西加奈子の主張であり、読者への訴いかけです。

この小説の冒頭から繰り返し使われるフレーズがあります。


「この世界にアイは存在しません。」


アイがさまざなエピソードに出会い、悩むたびにこのフレーズが繰り返されるのです。

作品の中からの引用です。


―アイ自身の生まれた理由を知りたかった。ずっと知りたかった。―


アイは、少女から思春期、そして成熟した女性へと成長する中で、時系列で起るさまざまな出来事、問題に直面します。それはアイの心の中だけにとどまらず、地球規模の残酷な現実と繋がっていきます。アイは、真摯に悩み考えて答えを見つけ出し、最後に自身の存在の意味をつかみ取ります

アイの両親、友人のミナ、夫のユウは、皆優しいのです。

アイの悩みに解決方法を押し付けるようなことはなく、アイが答えを出すことをじっと待ちます。

力作です。読み応えあります。読書後の感覚は極めて良好です。

ラストシーンは詩を読むように鮮やかなイメージが膨らみ、非常に感動的です。


全てではありませんが、この作品で提出される問題、現実です。

阪神大震災、養子、宗教

LGBTさらにLGBTQ

戦争、紛争による死者・犠牲者・難民、自分が幸せな環境に生きていることの疑問

日米安保反対の行動、東日本大震災

難民 格差

恋愛、思春期から女性への開花、セックス、不妊治療、妊娠、流産

血のつながり、家族、 ファミリーツリー、友情


力作であること認めて、ちょっとの不満。

夫ユウはアイに理解のある優しい男性として書かれていますが、人間的な肉付けが少ないと感じます。ユウは二度の離婚をして子供がいるという設定をサラリと通過してしまいます。もうちょっとユウの心の中を描いてもいいのじゃないかな。これから長い間アイとユウは夫婦であり続けるんでしょうから。

作品の文章は、情景描写、例えば空、星、風、風景、が出てこないのです。

アイを見つめる第三者的な語りでストーリーが進みます。

この語りは誰なのか? 主人公「アイ」ではないのに、「アイ」のすべてを知っている。

アイの行動、考えを明晰によどみなく説明しているですが、解説的すぎる感じがしました。


by hitoshi-kobayashi | 2017-03-13 08:00 | Comments(0)