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本の話 「自選 大岡信詩集」 岩波文庫 2016年  

「自選 大岡信詩集」 岩波文庫 2016

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詩人で評論家の大岡信(おおおか まこと)が4月5日に亡くなりました。

戦後の日本の詩の世界に大きな足跡を残した巨人です。

昨年来、病気療養中と報道されていました。とても残念です。

2016年、岩波文庫から自選大岡信詩集が発行され、買い求めました。

一度ブログで大岡の酒を詠った作品を紹介しました。

美酒、美食をこよなく愛した人だったようです。


自選詩集の巻頭の作品です。大岡信1511カ月(1947年)の詩です。

タイトル「朝の頌歌」の朝は、戦禍から立ち直ろうとする日本の心であり、大岡がこれからどう生きていくかの決意でしょう。

大岡の言葉は清冽で瑞々しく、この詩を読む者に強く響きます。



朝の頌歌(ほめうた)

大岡信


朝は 白い服を着た少女である

朝は

谷間から

泉から

大空の雲から

野末のささやかな流れから

朽ちた木橋のたもとから

その純白の姿を

風に匂はせながら静かに現れる


霧が無数の水滴となつて

静かに静かに降りそそぐ

黒い柔らかな土に

冬を蹴とばして萌え出た薄緑の若葉に

朝のしじまに籠る家々の屋根に

しづしづと降つては

新鮮な色に映える


その時 霧の中には

清らかな髪の少女(をとめ)が微笑み

やがて地上は朝の歓びに溢れる

歓びは

朝の巻毛にしたたる

すつきりとすきとほつた

清い髪の中に宿るニンフである


日が霧の彼方に

羞ぢらひつつ 紅らみながら昇って来ると

地上にはほのかな弦の音が響いて

やがて人々は

霧のひそかな手にめざめつつ

今日も生命の歓喜に満ちて

無限の歴史の連鎖の一環を作り出す

1947.1.6) 




by hitoshi-kobayashi | 2017-04-09 08:00 | Comments(0)