人気ブログランキング | 話題のタグを見る

映画の話 『修道士は沈黙する』 ジワリと面白い。

映画の話 『修道士は沈黙する』 ジワリと面白い。_f0362073_16432923.jpg

予告編ってうまく作りますよね。予告編を観て、題名にひかれました。

面白さのエッセンスを凝縮して、観なきゃ損と思わせる。

犯人捜しのサスペンス仕立てなんですが、経済、宗教、人生論、音楽、ややユーモラス、チョッピリお色気、といろんな味付けがあって、映像はキレイだし、音楽は素敵だしと、役者は上手いし・・・・

深刻でなく、軽さがあるんですが、よく分らない・・・・。


イタリア人修道士ロベルト・サルス(トニ・セルヴィッロ)が空港に降り立つことろから始まります。静かな導入です。空港から出ると、インドの修行者が棒一本で空中に浮かんでいます。修道士はそれを見つめますが、表情を変えません。高級車が修道士サルスを高級リゾートホテルに案内します。

天才的エコノミスト・IMF(国際金融基金)専務理事ダニエル・ロシェ(ダニエル・オートゥイユ)が自分の誕生日に、G8(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、ロシア)の蔵相を招きます。

映画の話 『修道士は沈黙する』 ジワリと面白い。_f0362073_16445779.jpg

誕生のお祝いは名目で、世界を経済で支配する大国がより豊かになり、貧しい国(人々)をさらに貧しくする計画が事前にすり合わせされていて、この集りで秘密裏に合意・決定しようとしていたのです。この計画の立案は理事ロッシュです。会議のカモフラージュのため、アメリカのロック歌手マイケル・ウインツェル(ヨハン・ヘンデンベルグ)、カナダの女性絵本作家クロール・セス(コニー・ニールセン)、そしてイタリア人修道士ロベルト・サルスが招かれたのです。

映画の話 『修道士は沈黙する』 ジワリと面白い。_f0362073_16440035.jpg

理事ロッシュは、自分が末期がんで余命がないことを修道士に告げ、告解を願い出ます。それが修道士マルスを招待した理由なのです。

翌朝、理事ロシェの死体が発見されます。自殺、他殺は不明です。

ここから捜査が始まり、理事ロシェと最後に会っていた修道士サルスが他殺の犯人として疑われます。又、蔵相たちは、理事ロシェが会議の秘密の計画を修道士サルスに漏らしたのではないかと疑います。公言され世界的スキャンダルになることを恐れています。

俗世界の悪人顔の政治家・エコノミストと宗教の世界の清新な修道士との会話がかみ合わないのが当然ですが、正しさ勝負は最初から決まっています。修道士サルスは、様々な質問と追及に沈黙で応え、G8の蔵相たちの不安はますます高まります。8名の蔵相・絵本作家・シンガーの人間性が、沈黙する修道士サルスと接することで浮き彫りにされます。

理事ロシェと修道士サルスとの最後の場面と会話は、ストーリーの実際の進み並行しながら、小刻みに振り返り挿入され、観客に知らされます。

ラストでは、半音のロングトーンで終わる曲のように、観客の気持ちは空中に不安定な状態で放り投げられてしまいます。しかし、不思議な清々しさを感じるラストでもあります。


余命が短いと知った理事ロシェが修道士に告解を求めた理由が理解しにくいんです。

私は、告解とは「犯した罪を聖職者(神父、牧師)に告げることによって神の赦しをえること。」と理解しています。聖職者は告解の内容を他言しないことが義務となっています。修道士サルスは戒律が最も厳しいとされるカルトジオ修道会に属しています。

ロシェはエコノミストとしての生き方に後悔がないと言い放っていますが、死を目の前にして何らかの悔いを感じていたのでしょうか。会議で決定される経済的計画を阻止したいと、経済的な意味を持つ「数式」を理事ロシェに託します。計画の内容は修道士には告げませんでした。そして自殺します。告解で罪の赦しを得たはずなのに、自殺は大罪です。死んでしまっては償えません。かなりワガママです。


映画の話 『修道士は沈黙する』 ジワリと面白い。_f0362073_16461183.jpg

絵本作家とカナダ蔵相は女性です。

カナダ蔵相は蔵相には見えないくらい若く、絵本作家は世界的に有名ですが、中年にさしかかっています。この二人はなかなか魅力的です。ちょっとした色っぽいサービスシーンがあります。二人には人生の悩みがあるらしいんですが、二人の過去は描かれないし、映画の中で悩みの解決もありません。

絵本作家は修道士を助けようとし、カナダ蔵相は計画に反対します。

靴の底から足の裏を掻くようなじれったさが残りました。



使われている音楽が意味深でした。アメリカのロック歌手がディナーの後の歓談でルー・リードの『ワイルド・サイドを歩け Take a walk on the wild side』を歌うシーンが印象的です。タイトルの意味は、「売春婦が脈のありそうな客に声をかける時のお誘い言葉」だそうです。

https://www.youtube.com/watch?v=qEYyQIIGQcc


メロディーは穏やかなカントリーロック風ですが、歌詞に高齢で教養のありそうなG8蔵相たちには似つかわしくないきわどい表現があります。

カナダの女性蔵相はグラス片手にリズムをとりながらシンガーと一緒に歌い、男性蔵相の中には笑いながら口ずさむ人もいます。全員がこの歌を知っています。

この歌は1970年代のアンディ・ウオーホールの周りに集まったバイセクシュアルの集団・ウオーホールスーパースターズの様子を歌っています。

この映画は2015年に製作・発表されています。各国の蔵相の年齢を6070歳とすると、曲の発表年1972年の頃は、蔵相たちの年齢が10代後半から20代です。

きっと、その当時若者だった蔵相は、納得できない現実に悶々としてこの曲を聴いていたのでしょう。そして今、笑いながら楽しんで聞いている。

監督ロベルト・アンドは、ルー・リードの曲を登場させた経緯について、「ある世代にとっては自由や愛の夢を意味している曲です。大臣たちも若いころに歌った歌だと思います。その頃には自由や愛の価値があったのですが、今では彼らは全く違う人間になっているわけです。あの歌を歌うけれど、その歌詞や言葉を裏切りながら彼らは生きているというところが面白かったのでこの歌を使いました。」とインタビューに応えています。


修道士マルス役のトニ・セルヴィッロの演技は素晴らしい。

映画の話 『修道士は沈黙する』 ジワリと面白い。_f0362073_16470859.jpg

少ないセリフに込める言葉の強さ、沈黙を続ける顔に微かに浮かぶ表情に厳しい修道士生活の中で培われた潔い精神性を表現していました。一方で、修道士は夜一人になると煙草を吸うし、女性の話題にニヤリとするんです。なかなかの曲者です。 とにかく立ち居振る舞いがキレイです。姿勢が美しいんです。



映画のテーマは、単純な図式ですが、『世界を動かすのは経済であると信じる大国のエコノミストの傲慢は“悪”であり、それに対抗できるの“善”は宗教である。』ことを描き、この映画の結論は『宗教が多くを語らず沈黙で勝利』としておきます。

チョット意味不明なところがあり、宗教映画でもなく、経済戦争の映画でもなく、宙ぶらりんのラストですが、全体が大人の雰囲気で、ジワリと面白い。こんな映画もあっていいと思いました。


もう一つの結論、やはり予告編は面白く作れらているな~

Blog長くてゴメンナサイ。


by hitoshi-kobayashi | 2018-04-28 08:00 | Comments(0)