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本の話 高城高(こうじょう・こう)著「〈ミリオンカ〉の女 うらじおすとく花暦」

本の話 高城高(こうじょう・こう)著「〈ミリオンカ〉の女 うらじおすとく花暦」 寿郎社 2018

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小説を読む楽しさを教えてくれる一冊です。私は女性に読んで欲しいと思いました。


女性が主人公の痛快小説です。でも、単純な話ではありません。

舞台はロシア・ウラジオストク。《ミリオンカ》とはスラム街を意味します。

時代は、日露戦争開戦前夜、1892年~1900年。

主人公の名前は、小説の地の文では、「お吟(ぎん)」、登場人物の会話では「エリス」と呼ばれています。この「お吟」がカッコいいんです。

本名:タグサリフユ、函館でタグサリチョウスケ、トシ夫婦の一人娘として生まれました。4歳のとき家の火事に紛れて、両親が父親の弟に殺され、それを目撃したフユは記憶が飛んでしまいます。後の養父・グリゴーリィの捕鯨船イリー号の乗組員に中田由松に助けられウラジオストクに渡ります。グリゴーリィは女の子を一時預かりますが、日本人の子どものいない洗濯屋枡谷徳之助・たけ夫婦の養女にしたいという懇願に負け、女の子を渡します。夫婦はギンと名づけますが、戸籍上は放置していました。夫婦に男の子が生まれると、それまで放置していたお吟を「浦潮吟」として孤児の扱いで日本領事館に届けます。徳之助は1879年妓楼、日之出楼を開業、お吟はそこで雑用に使われ、その後娼妓にされてしまいます。お吟が20歳のときに、実情を知ったグリゴーリィは、怒りに燃え力ずくでお吟を取り戻し、エリス(エリザヴェータ)と名づけ、養女にします。


このお吟の半生は、この小説の前段であり、これを踏まえてストーリーが展開します。

本著の導入・お吟の登場は、記憶にない4歳までいた函館の自分の生い立ちを確認し、ウラジオストクに還る船の上です。お吟は、妓楼での世界にいる間に、男を見る目、人間を見る目、度胸、判断力、実行力を磨き、娼妓でありながら、しっかりとした自意識をもつ女性に変わっていました。

当時のウラジオストクは、ロシア内陸と海外の国々の接点として、活発な経済活動を行う多民族都市、貿易都市でした。そこでは複雑な利権の争奪が起こります。お吟は、娼妓時代の人脈を生かし、毅然と立ち向かいます。


本著は13章からなり、それぞれの章に花の名前が付けられ、花がエピソードのポイントとなる粋な構成で、エピソードの積み重ねが大きな流れとなりストーリーは進みます。

お吟は花が好きなので、ウラジオストクの季節を飾るいろいろな花が紹介されています。お吟の性格の一面をかいま見ることができ、ストーリーに潤いが生まれます。


裕福な家庭の養女となったお吟は、服飾への気配りも怠りません。

私には理解できない服飾の単語がたくさん使われているので、飛ばし読みした個所もあります。


花、服飾とくれば、食事(料理)です。

例えば、ポルチーニが出てきますし、ウラジオストクの蕎麦屋「更科」がでてきます。

ロシア料理、フランス料理、アメリカ・・・日本、なんでもありでしょうか。

何しろ、ウラジオストクは多民族都市ですから。


痛快な話ばかりではありません。生活が貧しいため、子守りとして日本からウラジオストクに売られてきた少女が騙され、娼妓にさせられます。その悲惨な一生が一つの大きなテーマになっています。


著者の高城高(こうじょう・こう)の本は初めて読みました。高城は1935年生れですから、83歳(2018年現在)でしょうか。

大変な筆力です。無駄のない硬質の文体で読者を小説の世界の虜にしてしまいます。

花、服飾、料理、ウラジオストクの経済、貿易、そしてタイトルの《ミリオンカ》の下調べは膨大で綿密で、圧倒されます。

札幌在住のハードボイルドを得意とする小説家だそうですが、他の本を読む楽しみができました。


Commented by nayacafe-2950 at 2018-08-02 06:51
面白そうですね。

自分の中の「いつかは読もう!リスト」に
早速加えます(笑)

いつかは読もう!リストがどんどん増えます・・・
ひとつひとつ・・・
Commented by hitoshi-kobayashi at 2018-08-02 12:16
> nayacafe-2950さん
ご訪問、ありがとうございました。
私の本棚は、積読状態の本がたくさんあります。でも気にしていません。
私の読む力が落ちています。以前より時間がかかります。
それも気にしていません。
高城高の本を別に一冊買い求めました。当分、積読です。
Commented by jyon-non at 2018-08-03 18:02
数奇な運命に弄ばれたにもかかわらず、敢然と自分を見失わず前へと進む主人公。強い女性ですね。なかなかハードボイルドですね。
by hitoshi-kobayashi | 2018-08-02 00:00 | Comments(3)