人気ブログランキング | 話題のタグを見る

マンガの話 一ノ関圭「鼻紙写楽」 大きな収穫でした。

マンガ大好き人間の私は、マンガ古本屋を廻るのが楽しみの一つです。

御贔屓の店は、紹介済みですが『漫画林』。探していた作品や、新しい発見に出会うのが嬉しい。大きな収穫がありました。


一ノ関圭『鼻紙写楽』。小学館2015年。

マンガの話 一ノ関圭「鼻紙写楽」 大きな収穫でした。_f0362073_16325929.jpg

背表紙のタイトルにひかれ、何気なく棚から一冊取り出して開いた瞬間、衝撃を受けました。この作者、ただものではありません。

絵がトンデモナク上手い!

「写楽は何者か?」の謎解きストーリーだろうとタカをくくっていたのが、見事にひっくり返されました。これは絶対買わなくてはいけません。レジに直行です。

もう、待ちきれません。近くの喫茶店に飛込んで、注文そこそこに読み始めました。

舞台は江戸時代。歌舞伎役者・五代目市川團十郎(17411806年)、六代目市川團十郎(17781799年)、七代目市川團十郎(17911859年)の生きざまが、展開の縦糸です。そこに、田沼意次の失脚、松平定信の改革が絡みます。さらに浮世絵師東洲斎写楽の登場です。

写楽は寛政6年(1794年)5月から翌年の寛政7年(1795年)1月にかけての約10か月の期間(寛政6年には閏11月がある)内に、145点余の作品を版行し、突然消息を絶ちます。写楽は、五代目、六代目市川團十郎の役者絵を残しました。同時代、写楽は二人の團十郎を江戸で観ていたのでしょう。

マンガの話 一ノ関圭「鼻紙写楽」 大きな収穫でした。_f0362073_16202986.jpg


一ノ関圭ワールドに引き込まれ、溺れそうになりました。
これは面白い。絶対、お勧めです。

その画力に圧倒されます。人物は、主役から端役まで表情・立ち振る舞いから性格がわかるほど個性豊かに描かれます。映画を観ているかのように感情の細かい動きを感じます。その画力に驚きの連続です。ストーリーの精緻な展開も見事です。よく調べています。時代考証が正確でなければ、これほど細部にこだわって描けません。一コマ一コマの構図にも意味を感じます。改めて、歌舞伎や浮世絵の面白さ、奥の深さを知りました。

作品から発する情報量がとんでもなく多いので、読むことに体力が必要です。正直、ストーリーに夢中になりながら、先を急ぎたい気持ちを抑えて、ときどき一息入れました。

「鼻紙写楽」の各章(作品の中では、場としています。)は、単独で2002年から2009年にかけて発表されています。何故か発表順序は、ストーリーの時系列と違っています。本著はストーリーを時系列の順番に再構成されています。一ノ関圭の作品制作の構想はどうなっていたのか、不思議さと疑問が残りました。


一ノ関圭は極端な遅筆のマンガ家と言われています。何しろ、シナリオは勿論、時代考証、作画を、アシスタントを使わずにすべて一人で描いています。この時代では異質のマンガ家です。

実は、「鼻紙写楽」が、完結していないことが分かりました。本著の構成は三場からなる芝居仕立で、幕間・初鰹で終わっていますが、最終頁の最下段に「鼻紙写楽」第一幕―完―とあります。2017年に続編が発表されたらしいのです。残念ながら未確認です。きっと第二幕の始まりでしょう。

個人的な感慨ですが、一ノ関(さん)には、健康に留意され、是非「鼻紙写楽」を完成していただきたいと思っています。


一ノ関 圭(いちのせきけい、1950 - )は、日本の漫画家。秋田県大館市出身。女性。東京藝術大学油絵科卒。在学中に投稿した「らんぷの下」が、1975年第14回ビッグコミック賞を受賞(夢屋日の市名義)。一関圭名義をへて一ノ関圭名義に。

「鼻紙写楽」は、2016年第20回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第45回日本漫画家協会賞・大賞をダブル受賞しています。 


「鼻紙写楽」に触発され、一ノ関圭の作品を集めました。短編が多いのですが、それぞれが濃密なドラマであり、映画かTV作品の原作となりうるほどの、ずっしりとした重みがあります。かなりの読了感です。


「茶箱広重」小学館文庫 2000年 

マンガの話 一ノ関圭「鼻紙写楽」 大きな収穫でした。_f0362073_12565763.jpg

「らんぷの下」ビックコミック賞作家作品集1 小学館 昭和55年(1980年)

「裸のお百」 ビックコミック賞作家作品集2 小学館 昭和55年(1980年)

マンガの話 一ノ関圭「鼻紙写楽」 大きな収穫でした。_f0362073_12571693.jpg

私は、面白かったマンガを何度も読む習慣があります。一ノ関圭は繰返し読むことで新しい発見がありそうです。「鼻紙写楽」は既に三回読みました。「鼻紙写楽」の他の作品についても、いずれ紹介したいと思います。


by hitoshi-kobayashi | 2019-07-12 08:00 | Comments(0)