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本の話 原民喜『拾遺作品集Ⅰ』より「華燭」

原民喜の作品を別Blogで掲載中ですが、昨日「華燭」をアップしました。


原民喜は、広島の悲惨な被爆を描いた作家として知られていますが、本作品は、終戦前、1939年(昭和14)に発表されています。原民喜独特のユーモア―を感じる作品です。

是非、原民喜の別な一面を知っていただきたく、本Blogで「華燭」を紹介します。

「華燭」は結婚式前夜の宴会から翌日の夜までを時系列に描いています。
原民喜は、1933年(昭和8)3月17日、永井貞恵と見合い結婚をしました。

作品にフィクションが入っていることは頭に置くことは大切ですが、新郎の駿二は民喜であり、新婦は貞恵がモデルでしょう。

ネタバレにならないように、作品からいくつか気が付いた点を挙げてみます。

主人公は駿二。ナレーターは駿二自身ではなく、第三者です。しかし駿二の内面をよく知っています。内面のもう一人の駿二か、ストーリーを構成する原民喜かも知れません。

駿二は、無職で生活力がないにもかかわらず結婚することが、親戚によく思われていない様子です。これは民喜が自覚していたことかもしれません。

前年に原民喜は自殺未遂事件を起こしており、民喜の親が、原民喜の生活態度を何とかしようとした結果なのかもしれません。
花嫁にとってはいい迷惑ですが、実は、花嫁は民喜とって最高の女性でした。

駿二は裕福な家で育ち、結婚式も豪華で盛大です。

花嫁とは見合い結婚。見合いの時も花嫁の声を聞いていません。民喜はもともと無口です。

それも極端な無口ですので、作品の中で他の登場人物との会話は殆どありません。むしろ結婚式を他人事のように視凝めています。そして、頼りないながら極端に真面目なのです。その効果が作品の最後の花嫁とのやり取りを強烈に印象づけて、秀逸です。思わず笑ってしまいます。

花嫁(貞恵)は、愛らしく勝気で、はっきり物申す性格らしい。

エピソードが流れるように描写され、まるで、長廻しの映画を観ているようです。原民喜は無口ですが、実は、周囲で起きた事象を細かく観察し、民喜の記憶ファイルに整理・保管しているようです。原民喜は、妻貞恵が呆れるほどの遅筆だったそうです。しかし、情景が眼に浮かぶような強い説得力があり、その描写力・筆力は簡潔でありながらしっかりとしたものを感じます。


本作品は、結婚後、原民喜が人生の中で最も幸せな時期に書かれたものでしょう。

作品発表後、1939年(昭和149月、妻・貞恵が肺結核を発病、闘病生活に入ります。


是非、「華燭」をご一読下さい。


by hitoshi-kobayashi | 2019-11-16 08:00 | Comments(0)